はじめに
「AIを使うことによって、仕事が効率化され、人間は楽になる」と世間では言われています。
私は、ChatGPTが登場した2022年からAIを活用していますが、実は「仕事が楽になった」という感覚はそこまでありません。仕事が減ったのではなく、仕事の質が変わってきている気がします。
今回の記事では、なぜAIを使っても仕事が楽にならないのか、考えてみたいと思います。
AIが減らしてくれるのは作業
私が日常的に使う生成AIの利用方法は、リサーチ、論点整理です。以前であればインターネットや書籍で調査していたことを、生成AIは数分で処理してまとめてくれます。
それでは、生成AIが出力した結果をそのままアウトプット(お客様への資料や執筆原稿など)として使えるでしょうか。多くの人はNoと答えるはずです。なぜなら、生成AIの最大の弱点として、質問の背景などの「文脈」が足りていないケースがほとんどだからです。つまり、
- この前提は正しいか
- 最新制度を踏まえているか
- 顧客の状況に当てはまるか
- 自分が一番強調したい部分を強調できているか
といった、最終的な判断は人間が行う必要があります。
AIの回答は「概ね」正しい。でも、その「概ね」が厄介なところなのです。仕事にこだわりのある人ほど、AIの出力を見て「そうじゃない」と感じる人が多いのではないでしょうか。
私がそう感じる機会が多いのは、この記事をはじめとした、執筆です。AIに文章を書かせると、完璧(に見える)文章を出してくれます。でも、どこかが違う。
そのような「微妙な差異」を、自分の言葉で埋めていくことが人間に求められます(ちなみに私は生成AIに「文章を書いてもらう」ことは上記の理由によってしておらず、この記事も自分の手で書いています)。AIによって、ことが、AIを使っても仕事が楽にならない理由の一つです。
AIを使うほど、確認作業が増える
以前から言われている生成AIの危険な面として、「ハルシネーション」(日本語で「幻覚」の意味。AIがもっともらしいが事実とは異なる内容を生成してしまう現象)があります。
当初のモデルと比べたら大幅に改善してきてはいますが、特に私が扱っている専門分野においては今でも間違った内容を出力されることが非常に多い。特に、インターネット上に情報が少ないニッチな分野や、最新分野において顕著であるため、生成AIが出力した情報をそのまま鵜呑みにすることはできません。
したがって、どんなに完璧(に見える)出力をAIがしてきても、原典にあたることは専門家として必須です。そうなると、かえって完璧に見える生成AIの出力は弊害にもなる可能性もあり(生成AIは間違った内容でもそのままつじつまを合わせようとする傾向があります)、自分で1から調べた方が安全な場合すらあります。
とはいえ、シンプルで簡単な質問であればほぼ完璧な回答が返ってきます。したがって、、これも「生成AIを使っても仕事が楽にならない」要因の一つであると考えます。
効率化すると仕事は減るのか
もちろん、生成AIによって効率化が多く進む仕事もあります。例えば、ルーチン作業など、業務のフローが明確な仕事です。実際、筆者が生成AIを使い始めて最も効率化を意識できたのはプログラミングです。プログラミングは業務フローを言語化できれば、かなりの精度のコードを書いてくれるようになってきています。定型的なルーチン作業が大量に発生するような職場であれば、プログラミングを生成して業務を大幅に効率化することは可能です。
しかし、興味深いのは、効率化によって仕事が減るとは限らないということです。
業務効率化で空いた時間をどうするか。これは実は個人や組織によって大きく異なると考えています。例えば、「空いた時間をさらに売上をあげる時間に使う」と考える組織もあるでしょう。働く人たちは、「AIで時間がこれだけ空いたから、他の仕事もできますよね」とどんどん仕事が振られていく状態です。そうなると、仕事は当然減りません。
一方、空いた時間を今までできなかったクリエイティブな時間にあてる組織もあるでしょう。例えば、目の前の仕事に忙殺されていた人がAIによって時間ができ、より高度な管理業務や、経営戦略を考える仕事をするケースです。ただこの場合、すぐにそのような高度な仕事ができるわけではないことには注意が必要です。よく「作業はAIに任せ、人間は人間にしかできない仕事を」と言われますが、人間にしかできない仕事を理解しなければいけませんし、そのような仕事をするための訓練も必要です。仕事が減るのではなく、質が変わるのです。したがって、決して仕事は楽になりません。
ちなみに私は、AIで効率化して生まれた時間で、既存の仕事を増やすことはしていません。むしろ何もしない時間、非生産的な時間に充てています。ことが多いからです。
仕事の質が変わっただけ
このように見ていくと、AIによって仕事が減ったのではなく、仕事の質が変わっただけと捉えるのが良いのではないかと思っています。特に、何らかの専門性を持って仕事をしている専門家に言えると考えています。
私がしている税理士という仕事も、幾度となく「税理士は不要になる」と言われ続けてきました。具体的には、インターネットが出てきた時、e-Taxによってデジタル化が進んだ時、簡易な会計ソフトが出た時、そして生成AIが登場した時です。
それでは、税理士の仕事が少なくなった、なくなったかというと全くそうなっていません。むしろ、人材は不足する一方で年々仕事の重みが増してきている感覚すらあります。
もちろん生成AIによって大きな恩恵を受けるのも専門家です。しかしAIが汎用的な答えを提示する時代だからこそ、
- どの答えを採用するのか(判断)
- どのリスクを引き受けるのか(責任)
という責任が、専門家により多くのしかかってくると考えています。AIは正解を出してくれても、判断してくれるわけではないからです。専門家に残されるのは、この2つ(判断・責任)と考えています。そしてこれらの精度を上げていくためには、長期的な信頼の構築であり、これまで専門家がやってきたことと変わりありません。つまり、これまで専門家によって本質的な仕事でなかった作業部分が減少し、と言えるのではないでしょうか。
おわりに
生成AIは非常に強力な道具です。しかし、それは仕事を単純に楽にする装置ではありません。
むしろ、思考の密度を高める装置のようにも感じています。日本では以前から長時間労働が問題視されていますが、生成AIによって仕事の密度が高まった時代には、より労働時間を短くしていかないと、かえって人間の脳負担が増すと考えています。ひと昔前とでは、脳への負担の量が、全く異なります。
また、AIをどう使うかによって、個人・組織の戦略がより見える時代になったと感じています。先に書いたとおり、「空いた時間をどうするか」がそのひとつです。例えば私がしている税理士業では、これまで手作業で処理していた紙の領収書をデータ化する仕事を、生成AIにお任せできるようになっています。ひとりで事務所を運営している私でも、大量のお客様を受け入れられるかもしれません。ただ、それをやるかどうかはまた別です。空いた時間をさらに仕事時間で埋めるのは自分にとっても、社会にとっても最適解ではないと思っているからです。これはデジタル化で効率化が進んだときにも議論されてきたことであり、生成AI時代にも同じことが議論されていくでしょう。

結局のところ、問われるのは「仕事の質の変化が起きているいま、私たちはどのような生き方や社会のあり方を望むのか」ということと考えています。AIから目を背けずに、かといってのめり込みすぎて周りが見えなくならないように。そんなでしょう。
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