【デジタル大好き税理士・戸村涼子presentsペーパーレスから始めよう】AI時代にあらためて考えたい、Excelの正しい使い方

企業の経理業務において、Excelは欠かせないツールです。経理に配属されて、Excelを全く使わない、と言う方は少ないでしょう。筆者も長く企業の経理に勤めていた経験があり、独立後もExcelとは切っても切れない関係にあります。

Excelは汎用性が高く、ある程度の知識や経験があれば誰もが使える便利なツールです。ただ、「Excelの正しい使い方」については思いのほか周知されていないと考えています。というのも、筆者はこれまで問題のあるExcelを多くみてきており、業務の弊害になっていることを実感してきたからです。

そして今、この問題はこれまで以上に重要な意味を持ち始めています。なぜなら、Excelのデータは人間だけではなくAIも扱うようになってきているからです。このような状況では、「人にとってわかりやすいか」だけでなく、「AIにとって扱いやすいか」という視点も必要です。

今回は、AI時代におけるExcelの正しい使い方を考えてみたいと思います。

よくある「業務の弊害となるExcel」

読者の方にとっつきやすいように、筆者がこれまで現場で見てきた業務の弊害となるExcelの例を挙げてみます。

  • ぱっと見て「Excelの作成目的」がわからない
  • 見栄え優先(セル結合、非表示・空白の行列、1セルに複数情報、余計な罫線・色付けetc)
  • 処理プロセスが見えない(計算式に謎の数字が入っている)
  • 入力と出力が混在している(集計表に手入力で修正)
  • 用途不明のマクロが組まれている(作った人にしか説明できない)

「なんでこれがダメなの?」と思われる方もいるかもしれません。Excelは非常によくできたツールなので、上記のことがあっても「問題なく動いている」ように見えます。しかし、そこが大きなボトルネックなのです。なぜなら、上記のExcelは、

  • 効率が著しく落ちる(手作業、人の検証発生)
  • 人だけでなく、AIにとっても扱えないデータになる

からです。人間・AIにとって扱いやすいExcelについては、後述します。

なぜ問題Excelは発生するのか

そもそも前述した問題Excelはなぜ発生するのでしょうか。作成者にどういった視点が足りないのでしょうか。

1番の原因と考えられるのは、Excelを作る人が「作成そのものを仕事と思っている」ことです。

ここで筆者の体験談を挟ませてください。とある上場企業の経理に勤めていたとき、業務の引継ぎ書を渡されました。債権債務の内訳と増減理由を作成するExcelだったと思います。しかし、その引継ぎ書の内容が、「⚪︎部から⚪︎というデータを依頼し、シート⚪︎のセル⚪︎に貼り付ける。次に…」といったものだけだったのです。つまり、書いてあるのは「作業手順」のみで、この資料を誰のために、何の目的で作成するのかが全くわからなかったのです(後に監査法人が監査をするための説明資料として提出するものと知りました)。そして、誰もこのExcelの「目的」について明確に答えられなかった状況に衝撃を受けました。

なぜこういうことが発生するのか。私は、「締切」が多い経理業務の特性が原因のひとつと考えています。締切に間に合わせることを優先すると、「とりあえず作れればいい」という考えになりがちだからです。その結果、何のための作業なのかが見えなくなってしまいます。これは、今後活用が期待されるAIにも影響を与えます。人間が目的を指示できなければ、AIからのアウトプットは期待できません。これを防ぐためには、人間・AIにとって扱いやすいExcelを意識することが重要です。

人間・AIにとって扱いやすいExcelとは

それでは、人間・AIにとって扱いやすいExcelとはどういうものか、説明します。

目的、作業手順が明らか

まず、そのExcelデータがなんのために存在するのか、作業の目的は何なのか、明らかにすることです。筆者がよく行うのは、「目的・作業手順」という名前で全体像を示すシートをひとつ作ることです。このシートに、

  • このExcelの目的(何のために、誰のために作成するのか)
  • 大まかな作業手順

を書いておきます。この一手間だけで、自分が作業する時も、誰かに引き継ぐ時も、AIに指示を出す時も全く効率性が違ってくるはずです。

「大まかな」と敢えて書いたのは、目的がはっきりしていればその手段である作業手順は柔軟に変えてもいいと考えているからです。こうすることで、手段が目的化した「形骸化した資料」を防ぐことができます。

データベースとして有効か

Excelで資料を作成する際には、「インプット」(データベース)と「アウトプット」(人に見せる部分)を分けることが重要です。そうでないと、先ほどの例で紹介した「入力と出力が混在している(集計表に手入力で修正)」といった事態が起きてしまいます。そしてこのインプット部分となるデータベースの理解ができていないと、Excelを活用できません。

データベースとは、わかりやすく言うと「人やAIが後からそのまま使える形で整理されたデータの集まり」のことです。その原則は、

  • 1行1件、1列1項目
  • 見出し行は1行だけ・データ行と必ず分離
  • データ型(数値、文字列など)が統一されている

です。こうすることで、データ集計(関数、ピボットテーブル、グラフ)ができる状態になります。この条件を見れば、セル結合、非表示・空白の行列、1セルに複数情報が業務の弊害となることが明らかでしょう。

計算ロジックが明らか

非常に長くて複雑な数式を使ったExcelも「何をやっているのかわからないExcel」になりがちなので、計算ロジックをなるべくシンプルにすることが大事です。

例えば、計算式に理解できない数字を入れないことです。筆者も実務で、数式の中に謎の数字が入っていることがよくありましたが、これだと作成者以外の方が作業するときや状況が変わったときに検証することが非常に困難です。したがって、計算に使う数字はセルを分けて、その数式が意味するところをわかるようにする工夫が求められます。これは、AIにデータを見てもらう時にもとても大切な考え方です。

Excel業務の進め方のヒント

以上を踏まえて、Excel業務の進め方の具体的なヒントを説明します。

① 作業の目的を明らかにする

上司等の依頼により、Excel業務が発生したときにまず考えるのは「この作業の目的は何か」ということです。例えば、「月次の売上を集計する」Excelを考えましょう。しかし、単に集計するといってもその目的はさまざまです。

  • ターゲット(経営者・部門長など)
  • 何に役立つ情報が欲しいのか(予実分析/経営戦略策定など)
  • いつからいつまでの情報が欲しいのか(1ヶ月/四半期/年など)
  • どこまでの詳細を求められているのか(丸めた数字/1円単位など)

これらを明確にしないまま進めてしまうと、後から何度も修正が発生し、もしくは何が目的かわからないExcelが生まれ、作業時間が無駄になる可能性があります。

② アウトプットの方法を確認する

作業の目的がわかったら、最適なアウトプット(見せ方)を確認します。グラフで言えば、月次の売上分析を時系列に見ることが目的であるならば折れ線や棒グラフが最適ですし、商品やサービスごとの売上内訳が目的であれば円グラフが最適です。もしくは、ピボットテーブルでささっとまとめたものでも構わないかもしれません。いくら詳細なデータがあっても、見せ方であるアウトプットが目的にそぐわないものであれば意味がありません。依頼側に合わせて、最適なアウトプット方法を擦り合わせておくことも事前準備として重要です。

③ 必要なデータを確認する

次に、アウトプットに必要なデータを確認します。筆者もよくあったことですが、Excel作業を進めている間に「あ、この情報が足りない…⚪︎部にお願いしないと」という事態がよく発生していました。例えば月次の売上集計をする際に、会計ソフトからダウンロードができたとしても、すべての情報が揃っているとも限りません。受注情報はまた別のシステムに入っている、ということもありがちです。作業が中断するのは非常に非効率ですので、必要なデータは事前にすべて確認しておくことが大事です。

④ データベースを意識して作成を開始する

前述したデータベースの条件を満たしたシートを作成します。例えば、会計ソフトから試算表をダウンロードした時に、要らない空白や行列が入っていることは多いのではないでしょうか。この場合、データベースとして使えるような表に編集し直す必要があります(AIを使って自動化する方法も良いでしょう)。そして、「インプット」(データベース)と「アウトプット」(人に見せる部分。グラフや表など)は別シートで行うことが大事です。こうすれば、インプットするデータに変更があったときにアウトプットに柔軟に対応させることができます。

以上、AI時代にあらためて考えたい、Excelの使い方を解説しました。Excelは誰もが使える便利なツールである反面、正しい使い方はあまり周知されていません。だからこそ今、「目的を明確にする」「人にもAIにも使える形で整える」視点が、これまで以上に重要になったと言えるでしょう。

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