これまで約3年間にわたり、「ペーパーレスから始めよう」というテーマで連載を続けてきました。今回が最終回となります。
連載を始めた当初は、新型コロナ感染症が収束し、インボイス制度が始まった時期でもあったため、書類を電子保存する方法など、実務寄りの話を多く書いていました。その後、生成AIが急速に普及したこともあって、AI時代に求められるコミュニケーションや人間ならではの五感を鍛える方法などの話へ広がっていきました。
振り返ってみると、この数年間で、私たちを取り巻くデジタル環境は大きく変わりました。コロナをきっかけに対面で行っていた仕事の多くはオンラインで完結するようになり、人間が多くの時間をかけていた作業を、AIに任せられるようになりました。
しかし、連載を書き進めるにあたってひとつの疑問が湧き上がってきました。「デジタルやAIで便利になれば、それだけで私たちの人生が豊かになるのか」ということです。
最終回では原点に立ち返り、について考えてみたいと思います。
ペーパーレスの目的は、紙をなくすことではない
この連載のテーマである「ペーパーレス」という言葉から、多くの人が最初に思い浮かべるのは、紙の書類をPDFなどの電子データに置き換えることでしょう。しかし、「紙を電子化すること」自体を目的にしてはいけないことはこの連載でも何回も書いてきました。
「本来のペーパーレスって?」では、本来のペーパーレスとは「最初から紙を発生させないこと」と説明しました。ここで言いたかったのは、「書類を電子化する」は部分最適であって、全体最適ではないということです。あくまで全体のワークフローの設計をすることが先で、ペーパーレスはその手段、という位置付けを理解することが大切とお伝えしたくて書きました。
その流れとして「設計して、説明する。AI時代の経理の役割」では、経理担当者の役割が仕訳をする、書類を整理するなどの「職人」から設計と説明に責任を持つ「ディレクター」に変わる、という話を書きました。ディレクターとして、AIが処理したものも含めて説明し、ペーパーレス含めた全体の経理業務効率化を意識できる人が今後経理担当者として差別化できると考えています。
設計力に関しては、「AI時代にあらためて考えたい、Excelの正しい使い方」でも解説しています。前述した「職人」としてのスキルばかりにこだわると、見栄えを優先した、データベースとして使えないExcelなど、作成者本人にしか扱えない資料ができてしまいます。こうしたExcelは人間の作業効率を著しく落とし、さらにはAIにも正しく処理ができないということを書きました。Excelなどの基本ソフトを使って綺麗な資料を作成するのは、AIが既にできるようになっています。人間の経理担当者が今後やるべきことは、ことです。
AIも目的ではなく、手段
この連載の後半では、AIに関することを多く書いてきました。ペーパーレスから始まったこの連載も、AIの活用と切っても切れないものになっています。
今や、AIなしで仕事をすることは考えられません。私自身も資料の要約や情報整理、アイデアの相談、プログラミングのサポートなど、多くの仕事でAIを活用しています。
しかし、AIブームが加速するにつれ、「AIを使いこなせば昇進する、儲かる」といった流れが出てくると疑問を感じるようになりました。AIに過剰な期待を寄せたり、不安を感じたりする人が増えていると感じています。そこで、「AIは万能ではなく、他のテクノロジーと同じように手段である」ということもお伝えしてきました。
「AI時代に求められる読む・聞く・言葉にするスキルとは?」では、正確な「情報処理」はAIにお任せできる一方で、自分なりの体験や問いに基づく良質なインプットとアウトプットは人間にしかできない、ということを書きました。最近では、メール文章や社内文書、書籍の執筆までAIに「書いてもらう」ことが普通になってきています。それ自体は否定しませんが、抜け落ちてしまう部分もあると考えています。それは、言葉の先にある、相手が求めていることの深い理解や受容、想いを表現するためのアウトプットの力です。
「AIを使いこなす前の基本的なスキル」では、人間同士のコミュニケーションスキルについても書きました。AIを活用するにしても、背景や目的、フィードバックを重ねながら結果を作る忍耐力などは、これまでも、今後も必要とされます。むしろ、AIとの協働が増えるほど、人間同士の対話や場を動かすファシリテーション能力が求められています。AI時代だからこそ、目に見えない人間的スキルが求められるようになっているのです。
また、AIが登場したことにより、仕事が楽になるどころか、かえって大変になった人も現れている。そこで書いたのが、「AIを使っても仕事が楽にならない理由」です。これも、目的と手段を間違えた結果だと考えています。仕事では、何らかの判断を下し、結果を出すことが求められます。一方、AIは責任を取れないにも関わらずもっともらしい正解を自信満々に出力します。しかし、それが正解かどうかは人間にしか判断できません。もし誤りがあった場合、人間は、そのもっともらしい誤りを見抜くための確認作業の負担が生じます。作業が効率化されるほど、人間がAIと自分との「微妙な成果の差」を見極め、なおかつ最終的な判断と責任を引き受けるという、より密度の高い仕事が残っていくことになるのです。これが、AIを使っても仕事が楽にならない理由であることを書きました。
もうひとつ大事なポイントとして、「AIで業務効率化した先に何をするか」ということも書きました。よく、「人間は空いた時間でもっと高度な仕事を」と言われますが、訓練もなしに簡単にそんな仕事ができるわけではありません。そこで、そもそもAIで空いた時間をさらに仕事で埋めるのではなく、創造的な活動や何もしない時間を「自分で」選択することが大事なのでは、ということを書きました。最終的には、が問われているのです。
その先にあるのは、選択できる豊かな人生
ペーパーレスやAI活用の先にある目的は、仕事を早く終わらせることや、以前より多くの仕事をこなすことだけではありません。このAI時代における「選択できる豊かな人生」についても、何度か書いてきました。
「デジタル大好きな税理士が自然いっぱいの不便な場所に暮らしている理由」では、以前暮らしていた便利な都会生活が単調になり、不便で制御できない自然あふれる場所に引っ越したことにより、レジリエンス(柔軟性)と謙虚さを取り戻したということを書きました。静かな環境に暮らしていても、テクノロジーの力を借りることにより場所を問わず仕事をし、仕事量とのバランスを取りながら暮らすことも選べる時代です。
「デジタルを脱ぎ捨てて、五感を鍛えるためにしていること」では、デジタルやAIの特性である「人間が欲しそうな情報や答えを先回りして提示する」結果、余白が減り、頭の中だけで完結しようとする脳化社会と適切な距離を置くことを書きました。私がしている例として、日常の延長として旅に行く他、料理・散歩・掃除・家庭菜園・ハイキング・ピアノなどの身体を使う楽しみを持ち、人と直接会って話すことの大切さを書きました。人間とAIの大きな違いは身体性であり、人間は身体を通じて感じたことしか表現できないと考えています。
「AI時代、本当に問われているのは『信頼』そのもの」では、AIによってそれなりの「正解」を得られる時代には、膨大な情報から自分にとって価値があるものを選び、意味付ける「編集力」が重要になるということを書きました。人間の判断は、「正しい」だけでは決め手にならず、「この人が言うことなら信じられる」という、時間によって培われた信頼に基づくと考えています。税理士という職業柄、私が一番大切にしているのも、この信頼です。便利なデジタルやAIを利用してもと確信しています。

ペーパーレスから始まり、AI時代における人間の在り方まで話題が広がった連載でした。読んでくださった皆様にとって、となっていたら嬉しく思います。
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