【特別寄稿】安易な電子取引で説明責任を満たせないリスク

宮脇 崇裕
株式会社リコー 
経営企画部 経営企画センター

在宅勤務の普及による電子取引の増加

 新型コロナウィルス対策で在宅勤務が普及したために、押印の廃止機運が高まり、契約や請求などの電子取引サービスに注目が集まっていますね。緊急避難的には従来利用していた取引書面の内容をPDF化し、相手に電子メールで送付するという電子取引も増えているようです。

いままで、書面に印刷し社判を押して相手に郵送していた取引書類を電子的な授受に変更できれば、業務効率が上がり在宅での業務も可能になりますのでこれは望ましい傾向です。

「電子取引の標準化」

この時流を追い風にして、デジタルインボイス推進協議会やITコーディネート協会といった複数の団体による、「電子取引の標準化」を目指した検討が加速しています。

これらは令和5年10月にスタートする適格請求書等保存方式(インボイス制度)をにらみ、業務アプリケーションのデータ入出力を利用し、インボイスの企業間授受を電子化しようという試みです。それらの検討においては、インボイス書式の単なる電子的な授受のみでは、発行側の取引書類作成および受領側での帳簿への入力など、取引前後の業務効率化が不十分との理由から、取引データ形式を共通化し普及させようとしています。各団体とも日本の企業間取引において書面でのやり取りをなくし、完全にデジタルレコードデータの授受で済ませてしまおうと、既存のEDIと互換性を考慮しつつ、国税が要求する適格請求書の要件を満たそうと四苦八苦しています。

重要な落とし穴

しかし、これらの検討や既存の電子取引サービスを見ていて、ふと「重要な落とし穴」に気づいてしまいました。取引における入力業務改善は最もなのですが、そもそも取引書類はなんのために残すのかを考慮しているのかと。

取引書類は取引業務の正当性を確認するための証憑である

取引書類の授受は、資産やサービスの提供と購入という経済的活動を行う手段です。そのうえで、取引書類は取引業務の正当性を確認するための証憑であるということを忘れてはなりません。

たとえば、販売側および購買側ともに、金融商品取引法(J-SOX)の要求において、誤った取引データが会計データに反映されるリスクをコントロールするために、チェックする証拠として取引書類は確認されます。これは監査法人に内部統制の有効性を説明するためにサンプルを示さなくてはなりません。

また、取引における民事訴訟が発生した場合、自社の正当性を証明するためには、相手との取引書類は重要な証拠となります。訴訟となった場合には裁判所に該当の証拠として示さなくてはなりません。

さらに、定期税務調査において税務署の税務官に自社の納税額の正しさを証明するために、納税申告から7年間、取引書類を保存して説明に備えなければなりません。

どの場面でも、第三者に対して可視的な証拠として取引書類を示し、説明を行う説明責任があるのです。

利用している電子取引の方法およびその情報の保存方法は、これらの説明責任目的に耐えられるか?

さて、前述した「重要な落とし穴」とは、利用している電子取引の方法およびその情報の保存方法は、これらの説明責任目的に耐えられるかどうかということです。

例えば、税法にて義務化されている国税関係取引書類として、電子取引データの保存は、電子帳簿保存法で次のように要件が定められています。

可視性の確保のため、取引日、取引の相手、金額の主要な記録事項による検索、範囲指定、組み合わせ検索ができること。

真実性の確保のため、次のどれかを満たすこと。

  1. タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う

  2. 取引情報の授受後、速やかに(又はその業務処理に係る通常の期間を経過したのち、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う物又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく

  3. 記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正・削除を行うことができないシステムで取引情報の授受および保存を行う

  4. 正当な理由がない訂正・削除の禁止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う

電子帳簿保存法の正しい理解を

電子取引の授受サービスなどにおいて、取引業務の効率化だけを目的とし、保存義務と説明責任対応をサポートしていないものが見受けられます。電子取引プロセスが終了した後のデータは利用ユーザーがダウンロードする前提であり、保存まではサポートしないなど。

電子取引の利用においては、説明責任のために欠けている機能をどのように補うか考慮しておかないと税法の取引書類保存義務違反(違法)になってしまうことを意識するべきです。

数年後の税務調査時に指摘されて気が付き、厳罰を課されて後悔することがないように。

なお、リコーでは電子帳簿保存法の正しい理解と、サイオス社のソリューションの利用を含め、課題の解決策をホームページで公開しています。

参考

リコー 教えて電子帳簿保存法
https://www.ricoh.co.jp/solutions/electronic-book-and-record-keeping-based-on-law/

中小企業EDIについて
https://www.edi.itc.or.jp/

デジタルインボイス推進協議会について
https://www.eipa.jp/

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