【デジタル大好き税理士・戸村涼子presentsペーパーレスから始めよう】本来のペーパーレスって?

ペーパーレスには2種類ある

この連載の題名にも含まれている「ペーパーレス」という言葉、実は2種類の意味があることを皆様はご存知でしたでしょうか?

ひとつは、紙で受け取ったものをスキャナーやスマートフォンでスキャンしてデータにして保存するペーパーレス。そしてもうひとつが、最初からデータで受け取って、データのまま保存するペーパーレス。

昨今話題となっている電子帳簿保存法に当てはめてみると、前者は「スキャナ保存」、後者は「電子取引」になります。どちらが本来のペーパーレスでしょうか。

とある会社で経験したスキャン沼

ここで私の経験を共有させてください。10年くらい前に勤めていた外資系企業での出来事です。当時、経理部長だった方は「我が社にも最先端のIT導入を!」とテクノロジーに積極的な方でした。

そこで導入されたのが「最先端のスキャナー」です。なんと、紙の請求書をスキャンすると時刻が記録され、さらには専用のフォルダに自動的に保存してくれるというのです。外国人の方の熱心な説明をみんなで聞いて、早速その最先端のスキャナーが経理部に届きました。

結論として、そのスキャナーが導入されて経理部の仕事は増えました。

当然と言えば当然なのですが、これまで紙の請求書を伝票に添付して提出すればよかったのに、あらたに「スキャンする」という業務が追加されたからですね。

しかも、このスキャンがなかなかうまくいかない。請求書といってもいろんなサイズがありますし、紙質がペラペラでうまくスキャンできなかったり下手すると破れたり…。しかも、スキャナーは1台しかなかったため経理部の社員の「スキャン待ちの列」が常態化し、「あれ、なんか仕事増えてない?」と皆が気づき始めました。

さらに、紙を捨てられるわけでもありませんでした(当時はスキャナ保存の要件が今と比べて厳格でした)。単にパソコン上から専用フォルダにアクセスして請求書データを確認できるようになっただけ。スキャンの手間を考えたら、「紙で処理していたほうがむしろ良かったんじゃない?」とも思いました。

最初から紙を使わない電子取引が本来のペーパーレス!

この教訓(トラウマ?)から、「紙をスキャンして保存」に対して身構えるようになりました。よくよく考えてみると、どうせスキャンしてデータ化するならば、PDFなど最初からデータで送ってもらう方がずっと効率的です。そのままデータで保存すれば良いのですから(データのまま保存するのは電子取引保存の要件を満たすことが必要です)。

ですので、電子帳簿保存法対応で大事なことは、「現在紙で受け取っているものをスキャナ保存する」ことではなくて、「現在紙で受け取っているものを電子取引に移行する」ことです。

実際、スキャナ保存は一旦紙にしてしまっているため、タイムスタンプの付与(訂正削除履歴が残るシステムでも可能)、入力期間(請求書等の受領からタイムスタンプまでの期間)の制限、ヴァージョン管理、スキャン文書と帳簿の相互関連性の保持、検索機能の確保など電子取引よりも要件が多くハードルが高いです。専用のシステムが必須でしょう。しかも、しつこいようですが「スキャン」の手間があります。

一方、電子取引は検索機能の確保は必須ですが、訂正削除履歴が残るシステム、タイムスタンプの付与(送付側又は受領側)、訂正削除の事務処理規程のいずれかの措置で要件を満たします。専用のシステムがなくても、Excel等で索引簿を作ってデータを紐づけて保存し、検索できるようにしておけば対応できます。

紙で受け取ったものをスキャンして複雑な要件を満たしてデータ保存するよりも、データで受け取ってデータで保存する方がずっとスマートです。

まずは、紙で受け取っている請求書があったら、それを電子取引に置き換えられないか検討してみましょう。「ずっと先方とは紙でやりとりしているから言いづらい…」ということであれば、「電子帳簿保存法に対応するために」「電子インボイスを導入したく…」といった大義名分を掲げれば交渉しやすいはずです。先方も、もしかしたら遠慮しているかもしれません。

今日は、ペーパーレスには2種類あって、本来のペーパーレスは紙をスキャンして保存するスキャナ保存ではなく、最初からデータでやり取りする電子取引であることを解説しました。私のようにスキャン沼に陥らないよう、「最初からデータで!」を合言葉にしましょう。

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