【デジタル大好き税理士・戸村涼子presentsペーパーレスから始めよう】バックオフィスに求められる生成AIスキルとは

バックオフィスにも生成AIの流れ

2022年末からChatGPTをはじめとした生成AIが話題となっています。2024年にはいってから、ひとつまた大きな動きがありました。

それは、Microsoft社がリリースした「Copilot for Microsoft 365」というサービスです。

これは、以前から多くのオフィスワーカーが利用していたExcel、Wordなどのオフィス系ソフトの中に組み込まれたAIサービス全般を指します。例えば、Excelで適当な数式が思い当たらないときに質問をして提案してもらう、Wordで社内文書の下書きをしてもらう、Powerpointで取引先へのプレゼン資料のたたき台を作ってもらう、といったことが可能です。

これまでは、クリエイターが画像生成AIを活用して作品を作りやすくする、エンジニアがChatGPTにプログラミングを提案してもらう、などの使い方がメインでした。そこに、Excelなど特定のソフトに組み込まれた生成AIが登場し、これらのソフトを利用する多くのバックオフィスワーカーにも生成AIの活用が期待されています。

生成AIでバックオフィス業務はなくなるのか?

以前からそうですが、Copilot for Microsoft 365のように、新しいテクノロジーが登場すると

「これでマクロやプログラミングの知識は不要になる!」

「バックオフィス業務の人員を減らせる!」

という議論が起きます。しかし、仕事はそう簡単になくなりません(私がしている「税理士」も何度も消えると言われながら生き残っています)。「AIで◯◯の仕事がなくなる」は非常に雑な議論です。一言で仕事といっても、その中身は今すぐにテクノロジーで効率化できることもあるし、そもそも人がやらなくてもいいものもありますが、一方でこれは人間にしかできない、という仕事もあります。こういった雑な議論に振り回されないためには、

(現時点の)生成AIで何ができて、何ができないか

を知る力が必要です。つまり、よくわからなくてもまずは触ってみることが大事なんですね。著者も触ってみて「あ、こういうものなのね」と驚嘆も落胆もなく冷静に捉えることができました。

生成AIにできること・できないこと

それでは実際にCopilot for Microsoft 365を触ってみて、筆者が感じた2024年4月時点での「生成AIにできること・できないこと」を見ていきます。

生成AIにできること。それは、人間がやっている小さな業務のアシスタントをすることです。

「え、それだけ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。オフィスソフトに搭載されたAIアシスタントが自分に代わって自動で仕事を全部してくれる…そんな夢のようなことが起こればいいですが、まだそうなってはいません。

例えば、ExcelでCopilotを活用する場合、「特定の目的を達成する関数を提案してもらう」などのちょっとしたアシストが中心です。「あれ、こういうときはなんていう関数を使うんだっけ…」というときにCopilotに「◯◯をするための関数を提案して」と自然言語で指示を出せます。これまでだったら、ChatGPTに聞く、検索エンジンで検索する、といった解決方法が中心だったと思いますが、ソフト内で解決できる点が大きな進歩です。

ただ、オフィス系ソフトの初心者がCopilotを使って業務を効率化できるというとそうはなっていません。例えばExcelで何らかの表があり、集計して適切なグラフにしたい、という場合。データベースとして整えられている表であればすぐに活用できますが、そうなっていない場合まずはデータを整え、「テーブル」というフォーマットにするところから始めなければなりません。したがって、そもそも「テーブルの定義とその意味」を知らなければその後の処理をAIに任せられません。また、「どういったデータを集計し、グラフにするか」は、「そのグラフからどういったことを読み取りたいか」「そのためにはどんなフォーマットのグラフが適切か」を考える必要があり、それは人間でしかできません。

バックオフィス業務の効率化・自動化に欠かせないマクロ、VBA、RPA、プログラミングも、現状知識が全くない方が生成AIを使って効率化できるわけではありません。2024年4月現在、Copilot for Microsoft 365ではマクロやVBAを提案してもらうことは不可です。ChatGPTなど他の生成AIでプログラムコードを提案してもらうことはできますが、プログラミングの基本的なことを知らなければ適切な指示ができませんし、コピペしたプログラムを貼り付けてエラーが発生したときも対処ができません。「生成AIでプログラミングの勉強は不要になるのでは?」と言われていますが、実際は勉強が不要になるのではなく「基本スキルのある人がさらにスキルを伸ばすためのツール」と言ったほうが正しいでしょう。

ここまでの話を整理すると、バックオフィス業務における生成AI活用は、あくまで基本スキルのある人間の「アシスト」であり、人間の「代わり」にはならない、ということになります。これは触ってみないと実感できないことなので、是非、触ってみてください。

これからバックオフィス業務に求められるスキル

それでは、生成AI時代におけるバックオフィス業務に求められるスキルはなんでしょうか。

そのひとつは、間違いなく全体のフローを俯瞰できるスキルです。バックオフィス業務は、全体の「流れ」が大事です。フローのどこかにボトルネックがあると、どんなに小さな業務を効率化させても全体最適化にはつながりません。AIは、小さな業務の効率化(例えば、ちょっとしたマクロの提案など)は得意です。しかし、その会社の全体のワークフローについてアドバイスすることはできません。この部分は、これまで以上に人間が鍛えるべきスキルであり、そのスキルがあってこそ必要な仕事、不要な仕事を区別でき、必要な仕事に対してAIに指示を出すことができます。

もうひとつが、生成AIに「適切な」指示を出すスキルです。それは前述した全体フローを俯瞰できるスキルが前提となりますが、プラスしてそれをAIに伝えることができる言語化能力が重要になります。人間であれば、五感をフル活用して上司の言いたいことを部下が空気で理解して進めることがある程度可能ですが、AIはそうはいきません。プログラミングと違って自然言語で指示を出せるAIはハードルが低いと思われがちですが、指示ひとつで出力される結果は大きく異なります。このとき、プログラミングを少しでも勉強している人は強みです。というのも、プログラミングを少しでも勉強していれば、曖昧な指示では機械は認識してくれないことを知っているからです。ルールに従い、ぬけもれなく指示を出さないとエラーが出て進めません。筆者もこれまでプログラミングを業務に活用してきましたが、エラーが多発したことが何度もありました。そして、その原因は必ず適切な指示を出せなかった自分にあるんですね。そういう経験をしているからこそ、自然言語で指示を出す生成AIにおいても曖昧さを排除できます。そういう意味では、これまで声の大きさで勝負してきた人よりも、静かに、正しい言語で論理的に勝負してきたひとのほうが生成AIに正しい指示を出せる可能性は高いでしょう。時代によって、活かせるスキルが全く異なることは、非常に興味深いです。

最後に、「学び続ける力」です。バックオフィス業務というと、「決まったことを正しく行う」ルーティーンワークが多いイメージがありますが、そういった仕事は生成AIにサポートしてもらいながら自動化する流れが進むでしょう。そうなると、バックオフィス業務に余剰人員が出てきてしまうのでは?と心配される方も多いと思います。確かに、ルーティンワークをこなす仕事は減るでしょう。しかし、その代わりに先ほど説明したような全体の業務を俯瞰し、AIに正しく指示を出し、その業務の付加価値を高めることをする人が必要になります。バックオフィス部門内で、AIの研修講師を任せられる人材も必要となるでしょう。つまり、バックオフィス部門において求められるスキルが「ミスなく、業務を行う」から「全体を俯瞰し、適切な指示をAIに出し、結果についてアウトプットする」に変わっていくと考えられます。「なんだか求められるレベルが高くて、自分には無理…」と思われる方もいるかもしれません。そういう方は、既に自分がもっている強みに注目してみてください。それは、自分がしている業務に精通していることです。どんなに優秀なAIコンサルタントでも、その業務に精通している人がいなければ良い成果は出せません。AIを使いこなせなくても、日々している業務に対して「これは要らないかも」「ここはもう少し効率化できるかも」と考えるだけでも貴重な意見となります。というよりも、そういった発見をすることが今後の人間の役割になるはずです。

マクロやプログラミングなど専門的な技術は知らなくても、「この業務をもっと効率化させたい」というモチベーションを持てるのは人間の強みです。自信を持って発言していき、同時にAIに適切な指示を出す練習もしていきましょう。

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