経済産業省は2018年に、近い将来、企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現できないことで生じる経済的損失が最大で12兆円にのぼると提言しました。
別の角度で解釈すると、DXを実現した企業とそうでない企業で、大きな格差が生まれるともいえるでしょう。人材不足も深刻化する昨今、従業員1人あたりの生産性が求められています。そのためにも、デジタル化による業務の効率化は欠かせない存在です。
当記事では、DXのデジタル化の違いについて解説し、具体的なデジタル化の実施方法をご紹介します。現状の業務体制に課題を感じる方はぜひ参考にしてください。
DXとデジタル化は目的が異なる!
こちらでは、DXとデジタル化の概念について解説します。世間一般のイメージでは、DXとデジタル化は同じ部類として認識されることも珍しくありません。円滑に施策を進め、従業員から誤解を生まないためにも、全社的に両者の概念を理解しておく必要があります。
DXの目的は企業の変革
DXとは、デジタル化を通じてさまざまな観点から変革を図ることで新たな価値を創出し、競争上の優位性を確立することを指した概念です。いい換えると、デジタル化によってかなえる企業のゴールともいえます。経済産業省が発表したDXの定義は、以下のとおりです。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
出典:「DX推進指標」とそのガイダンス(経済産業省)
DXとデジタル化は、デジタル技術を業務に用いている点では同じといえます。しかし、デジタル化はあくまでDXを実現するための手段であり、DXは変革や創造をもたらすゴール地点です。そのため、DXはデジタル化を内包した総合的な概念といえるでしょう。
デジタル化の目的は業務の効率化
デジタル化の目的は、データやデジタルテクノロジーによってアナログの業務を効率化・省人化することです。個別的な技術を指す言葉で、DXに必要な要素の1つです。
総務省が発表する「令和3年 情報通信白書」においても「デジタル技術を用いた単純な省人化、自動化、効率化、最適化」と述べており、DXとは別の概念なことがわかります。
例えば、会議資料をタブレット端末に変えるペーパーレスは、デジタル化の1種といえるでしょう。デジタル化は決して大規模な取り組みを指すものではなく、簡易的なデジタル技術へのシフトも含まれます。
デジタル化の結果としてDXの推進に繋げられる可能性も
そもそもDXには「デジタイゼーション・デジタライゼーション・デジタルトランスフォーメーション」の3つのフェーズがあり、デジタル化はこのうちデジタイゼーション・デジタライゼーションにあたります。
つまり、デジタル化の集合によって実現するのが、DXです。デジタル化によって企業の体制に変革をもたらすこと、企業競争力を強化することに成功すれば、DXを実現したといえます。そのため、企業によっては、一度始めたデジタル化がDXに発展する可能性も十分あり得ます。
例えば、RPAの導入で経理の業務効率があがり、その影響によって生まれたリソースが新たな事業に投じられれば、DXといえるでしょう。
DXを推進した企業の未来
DXの概念は「企業の変革」と「新たな価値の創造」がゴールと前述しました。ここからは、上記の2点が具体的にどのような結果を指すのかについて解説します。
生産性が高まる
DX化はデジタル化から進める必要があるため、各種ツールを導入して業務の効率化を実現できます。そのため、生産性の向上はDXで受ける恩恵の1つといえるでしょう。
DXの一環である業務プロセスの自動化やデータ基盤の最適化は、総合的な業務の効率化や生産性の向上に直結します。
具体的な技術として挙げられるのが、RPA(AIを用いた業務プロセスの自動化技術)です。人の手で行っていた作業をRPAによって自動化すれば、従業員の作業時間を削減し、重要度の高い業務に時間を割けます。
新たなビジネスモデルの創出が行える
効率化で時間や人員が有効活用できると、人にしかできないアイディア創出や改善活動を行い、新たな販路拡大やビジネスモデルの展開につながるでしょう。
例えば、これまで従業員の感覚や経験によって判断していたものをデータドリブン(データを起点としたものの考え方)な意思決定に移行することで、感覚や勘では見えなかった傾向や活路を、数字として誰でも可視化・活用できます。
永続的な企業の発展が叶う
昨今の消費者行動は流行り廃りのスピードが早く、古いビジネスモデルでは変化に追いつけないといわれます。絶えず変化を繰り返す時代で生き残るには、IoT(モノにインターネットを搭載する技術)やAIを軸にした、スピーディーな手法が必要です。
DXによってビジネスモデルを変革させることで、デジタル志向の高速なマーケットにも対応できるでしょう。
また、DXは事業の安定化を図るBCP(災害やシステム障害などの危機的状況による被害を最小限に抑えるための対策をまとめた計画)の策定にも効果的です。
例えば、社内データをオンプレミス(情報システムを自社に設置すること)からDXに伴いクラウドサーバーに移行した場合、災害時にデータを喪失する心配がありません。
DXの具体策はデジタル化からスタートしよう
ここからは、DXを実現するための具体的なデジタル化の手段について解説します。DXはデジタル化の取り組みを継続することで実現する概念です。スタートにあたっては、身近なデジタル化を進め、デジタルテクノロジーを活用する感覚を掴むところから始めましょう。
データの電子化
明日から始められるデジタル化の1つとして、アナログの情報の電子化が挙げられます。前述したペーパーレスも、電子化の1つです。このほか、請求書・契約書・顧客情報・レビューなど紙で取り扱うものは、基本的にすべて電子化で一括管理できます。
データを電子化するメリットは、取引や手続きの高速化です。例えば、電子印鑑を用いたデータによる契約手続きでは、わざわざ取引先に足を運ばなくてもオンライン上で即座に契約できます。
クラウドサービスの活用
意思疎通や業務の報連相にクラウドサービスを利用すれば、情報共有にかかるタイムロスをほとんどゼロにでき、データの喪失リスクも下げられます。
アナログのコミュニケーション体制では、なにか報告があった場合でも、個別で連絡しなければなりません。外回りや商談で部署にいない人もいるため、連絡漏れのリスクも発生するでしょう。
チャットツールを始めとしたクラウドサービスなら、スマートフォン1台で連絡を完結でき、場所も選びません。共有したい資料はコミュニティに添付できます。スピーディーに業務を遂行できるため、効率化の観点でも効果的です。
リモート業務の導入
デジタル化の一環として始めやすいのが、リモートワークです。既存業務のなかには、会社に出社せずとも対処できる類が存在します。
例えば、社内会議やチームでのディスカッションは、わざわざ社内で行う必要性がありません。PCやスマートフォンのグループ通話機能を使えばどこでも実施できますし、資料も画面共有で済ませられます。
子育てや介護など個人の事情で出社できない場合でも、リモートワークなら続けられる可能性があります。実施にあたってはクラウドサービスの導入やデータの電子化が欠かせないため、前述した2つの施策からスタートするとよいでしょう。
DXを目指すポイント
ここからは、DXを実現するうえで重要な意識や、円滑に進めるためのポイントについて解説します。デジタル社会で取り残されないためにも、以下の項目を押さえたうえで実施しましょう。
スモールステップで実施する
DXの実現に、大規模な基幹システムや高度な知識が必要とは限りません。実施にあたっては、スモールステップでできることから進めるのがおすすめです。身近なアナログ資料をデータ化するデジタイゼーションから始め、全社的に徐々に感覚を掴んでいくとよいでしょう。
スタート段階から高度なツールや技術を使ったプロジェクトを実施しても、周りの従業員が変化のスピードについていけない可能性があります。まずはできるところから始め、手法をPDCAサイクルでブラッシュアップしながら、徐々に進める意識で臨みましょう。
「誰一人取り残さない」を意識する
DXは全社的な取り組みであって、経営層や管理者によるトップダウンの強行は推奨されていません。
DXの定義に記載されている「組織、プロセス、企業文化・風土を変革」の言葉から解釈できるように、デジタル化の実施には経営層だけでなく、従業員の意見を取り入れるボトムアップの仕組みも必要です。
デジタルツールの導入にあたっては、年配の方が取り残されやすい傾向にあり「居心地が悪い」「業務を思うように進められない」といった事態も想定されます。
全社的な取り組みを進める具体的な対策として、以下が挙げられます。
- デジタルテクノロジーの講座を開きITリテラシーを高める
- ツールの使い方に慣れるための研修を実施する
- 直感的に使えるツールを選定する
DXプロジェクトは、進捗に対する従業員のヒアリングを徹底し、足並みを揃えたうえで進めましょう。
デジタル化の具体例
ここからは、具体的なデジタル化の例をご紹介します。既存の業務体制に疑問を感じる方は、ぜひ参考にしてください。
契約書や請求書のデジタル化
スモールスタートとしてデジタル化を始めるには、契約書や請求書のデジタル化がおすすめです。近年は直感的に使える電子契約サービスや経理ツールも充実しており、自社開発をしなくても手軽にシステムを導入できます。
ツールによってはサポート体制も充実しているため、ICT部門の担当がいない、あるいは人手が少ない企業でも始められます。
コミュニケーションのデジタル化
オンライン会議やチャットツールなど、コミュニケーションのリモート・デジタル化も比較的始めやすい部類です。国内でもよく使われるコミュニケーション媒体として、以下が挙げられます。
- zoom
- Google Meet
- LINE
- Chatwork
- Slack
コミュニケーションツールは無料で使えるタイプも多いため、スタートにあたっては無料版から始め、自社に必要な機能を見極めるところから始めるとよいでしょう。
業務管理のデジタル化
社内のデータを一元管理できるツールを導入することで、連絡業務や進捗管理を効率化できます。具体的なツールとして、営業部門の顧客情報を司るSFA、マーケティング全般のデータを管理するCRMが代表的です。
業務管理ツールは部署間で別々のものを使うとデータの所在が煩雑化するため、ツール間で互換性のあるものをおすすめします。
まとめ
DXの実現にあたっては、自社の課題に合わせた個別のデジタル化が第一歩です。デジタルリテラシーに疎い層も一定数いることが予想されるため、スモールスタートでデジタル技術の感覚を掴むところから始めましょう。DXは短期的に実現できる取り組みではないため、段階的に進めるのをおすすめします。
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