【デジタル大好き税理士・戸村涼子presentsペーパーレスから始めよう】AI時代に求められる読む・聞く・言葉にするスキルとは?

はじめに

AIの進化が激しい現代、会社のさまざまな仕事を人間が行う必要がなくなっています。例えば、リサーチ業務があります。特定の分野についてインタビューや文献、インターネットから得た情報をまとめる業務です。これらはAIを使うことで大部分を効率化できます。以前はインタビューの録音・録画を人が文字起こしして要約していましたが、AI文字起こし・要約ツールを使えば高精度で短時間に仕上げられます。また、報告書やレポートの作成も、適切な指示を行えば基礎的な部分まではAIが作成できます。将来的には、自分の分身がインタビューを行う・受ける日が来るかもしれません。このように、これまでビジネスパーソンにとって磨くべきとされてきた読む・聞く(インプット)と言葉にする力(アウトプット)は、AIによって大幅に代替されるようになりました。

それでは、これらの基本スキルはもう身につける必要がないのでしょうか。私はそうは思いません。正確には、AIの進化によって人間が磨くべきスキルが変わったと考えます。本記事では、AI時代に求められるスキルの変化と、そのスキルを磨く方法について述べます。

AIによって求められるスキルの変化

これまで、ビジネスパーソンの読む・聞く・言葉にするスキルで重要視されてきたのは「正確性」や「ルールへの忠実性」でした。例えば、「ホウレンソウ」という言葉が示すように、業務を行うにあたっては、決められたルールに則って正確に行うことが重視されてきました。私も就職したての頃、メール送信の際には肩書を間違えていないか、誤字脱字がないか、失礼な内容になっていないか念入りにチェックしていました。

しかし、AIの登場によって、これらの業務の大部分は既に不要になっています。AIがこなしたほうが、人間が行うよりもより正確に行ってくれます。それでは、人間が磨くべきスキルは何でしょうか。それは、自分なりの体験や問いに基づく良質なインプットとアウトプットと考えています。具体的に見ていきましょう。

読む

まずは、「読む」スキルについて考えてみましょう。仕事をしていく上では、多くの「読む」業務があります。私の仕事(税理士)でいうと、お客様のご相談メールや国税庁から公表される文書、法律条文、実務書などがあります。これらの読む行為は、すべてアウトプット(言葉にする)のためにスピーディーに行わなければなりません。AIが登場する以前は、こういった読む業務に相当な時間が取られていましたが、今はAIを有効活用すれば読むための時間を大幅に減らせます。

例えば、生成AIに要約をお願いすれば、ポイントを短時間で押さえることが可能です。ChatGPTはテキストだけでなくPDFも読み込むことができ、「この資料のポイントを5つにまとめてください」とお願いすれば、瞬時にまとめてくれます。何かを調べるときも同様です。以前は「ググる」が第一歩でしたが、今はAIを使ったほうが早いです。例えば、Perplexityというサービスは、自然言語で質問できる上に「どのサイトを参照したか」の情報源まで表示してくれるため、信頼性を確保できます。

忙しいビジネスパーソンにとって、こういった便利なサービスを活用しない手はありません。それでは、今後「読む」スキルとしてどの部分を強化すべきでしょうか。それは「アウトプットを意識して読む」ということです。読む行為は何らかのアウトプット(目的)があるはずです。お客様のため、社内に情報を共有するためなど、さまざまな目的です。私の場合も、国税庁の難しい文書を読むのは「お客様に役立つ情報を提供する」ためです。具体的なアウトプットのイメージを持って読むことで、理解が深まり、インプットの質も向上します。インプットとアウトプットは常に連続で考えることが重要で、そのプロセスを楽にしてくれるのがAIです。

聞く

次に、「聞く」というインプットスキルについて考えてみましょう。聞くスキルは、非言語的な要素が多く含まれるため、AIには代替できない部分が多いと考えています。職場での対話やZOOMでの取引先の話を聞く際には「相手の求めているもの」を理解することが重要です。コロナ禍でテキストベースのコミュニケーションが主流となった今、人と対面して「聞く」行為は特別なものです。だからこそ、テキストでは伝えきれない非言語的なものを読み取るスキルが求められます。

私が「聞く」スキルで大事だと思っているのは「相手を全面的に受容する」ことです。何か違和感があっても、ひとまず受け入れることで「この人は自分の話を受け入れてくれる」と信頼されます。この信頼がなければ、人間関係は成り立ちません。組織での上司と部下の1on1ミーティングでも、この考え方は重要です。これは、ひたすら場数をこなして、練習するしかないですね。

もちろん、「聞く」についてもAIを活用できる場面はあります。例えば、ZOOMなどのオンライン会議ツールの文字起こしや要約を自動で行ってくれるAIです。会議終了後の議事録作成が不要になります。筆者も試しましたが、非常に精度が高いです。議事録作成はそれ自体価値が生まれるものではありません。このような業務にはどんどんAIを活用し、人間は「聞く」行為に集中しましょう。

言葉にする

最後に、「言葉にする」(アウトプット)スキルです。具体的には、何かを書く、話すことです。特に日本のビジネスパーソンはこの言葉にするスキルが不足している印象があります。インプット偏重の学校教育の影響もあるでしょう。しかし、AI時代にはこのアウトプットスキルがますます求められると考えています。生成AIと人間で大きな違いが出るのがこのアウトプットだからです。

「言葉にする」は大きく2つに分かれます。一つは「情報」を届けること。例えば、業務上の「報告」です。日本の職場ではこの報告が特に重視されています。実はこの「報告」についての言葉にするスキルは、生成AIでほぼ対応可能です。例えば、私はちょっとした報告のメール返信はほぼ生成AIに任せています。メール本文を貼り付けて「このメールの返信文を考えて+条件(了承する、断る、など)」と指示するだけで、たたき台を作れます。「メールを自分で書かないなんて」と思うかもしれませんが、単なる報告であれば全く問題ありません。一方で、センシティブな内容のメールは自分で一から書きますし、お客様に仕事と関係ない趣味の話を送ったりすることもあります。AIができないことは、自分でしています。

「言葉にする」のもう一つの側面は、情報にプラスして「想い」を届けることです。例えば、組織の社長が全体ミーティングでメモを見ながら棒読みしていたら、社員は不安になります。言葉に想いを込められるのは今のところ人間だけです。生成AIに「パッションのある文章を」と指示してもありきたりなものしか出てきません。そこには個人の体験談やストーリーがないからです。「自分はトップに立つ人間でもないし、言葉に想いなんて必要ない」と思うかもしれませんが、想いがない言葉は生成AIで代替可能です。つまり、少し極端な書き方ですが言葉に「想い」がない人の業務は、生成AIに代替されます。

以上の話をまとめると、生成AI時代には「報告する」など、機械的にできることはAIにどんどん任せ、人間は自分の体験を増やした上で自分だけの言葉(想い)を磨いていくことになるでしょう。

言葉にする力を磨くためには、特別な「勉強」は不要と考えています。AI時代には長い文章を校正するなど、「誤りを正す」スキルは必要ありません。筆者は日頃から言葉にすることを仕事にしていますが、特別な勉強はしていません。本を読み、人から話を聞き、それを拙い言葉であっても自分なりにまとめて書籍やブログ、Web記事に書く、人に話す。このインプットからアウトプットの一連の流れを習慣化できれば、自然とAI時代に必要な言語化の力は磨かれていくと考えています。細かい文法や言葉遣いの訂正は生成AIがやってくれるので、思う存分アウトプットしましょう。とはいえいきなり日記を書く、ネットで発信する、人前で話すことはハードルが高いです。最初は日々のちょっとしたメモでも構いません。私も日々思いついたことはデジタルツールでメモしています。

日常の習慣にインプット(読む・聞く)→アウトプット(言葉にする)の流れを取り入れてみることで、ビジネスパーソンとして必要な読む・聞く・言葉にするスキルがどんどん磨かれていくはずです。

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